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神戸地方裁判所姫路支部 平成9年(ワ)431号 判決 1998年1月29日

主文

一  被告らは、原告鑛納幸子に対し各自一一二七万二六五九円及びこれに対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告鑛納忠三、原告鑛納茂一及び原告鑛納智和のそれぞれに対し、各自三七二万四二一九円及びこれに対する平成八年五月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの、被告らに対するその余の請求を、いずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告鑛納幸子(以下「原告幸子」という。)に対し、各自一七一八万六七一一円及び内金一六七六万三〇一五円に対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告鑛納忠三、原告鑛納茂一及び原告鑛納智和(以下「原告智和」という。)のそれぞれに対し、各自五七二万八九〇三円及び内金五五八万七六七一円に対する平成八年五月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提となる事実(認定根拠は各項目末尾に括弧書きで記す。)

1  平成八年五月二五日午後九時二〇分頃、兵庫県神崎郡神崎町福本一一九〇番地の二の国道三一二号線上において、被告松本彰(以下「被告彰」という。)が普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)を運転中、指定最高速度である時速四〇キロメートルを大きく上回る時速九五ないし一〇〇キロメートルで走行したため、カーブを曲がりきれずセンターラインを超えて対向車線にはみ出させ、更に慌ててハンドルを逆に切ったためハンドルを取られ、自車を左右に暴走させてセンターラインを越え、対向車線を走行中の鑛納亮一(以下「亮一」という。)運転の被害車両に正面衝突した(争いがない。)。

2  亮一(当時六二歳)は、本件事故による肺挫傷で即死した(争いがない。)。

3  被告松本昇は、加害車両を保有し運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、また、被告彰は加害車両を運転し過失によって本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条に基づき、それぞれ本件事故により亮一が被った損害を賠償する義務がある(争いがない。)。

4  原告幸子は亮一の妻であり、その余の原告らは亮一の嫡出子である(甲第一二ないし第一五)。

5  本件事故による亮一の損害を填補するため、平成九年二月一四日、自賠責保険から二三二五万五五〇〇円が亮一の遺族らに支払われた(争いがない。)。

二  争点

本件の争点は主として損害額である。

1  葬儀費等

(原告の主張)

(一) 葬儀費等 一二〇万八八四四円

(二) 墓碑建設費 二三七万一〇〇〇円

墓碑建設費は葬祭費と別に認められるべきである。

(被告の主張)

総計で一五〇万程度までである。

2  逸失利益

(原告の主張)

以下の計算式により、二一二〇万一六八七円が相当である。

平均賃金月額三四万六八〇〇円×一二ケ月×〇・七(生活費控除)×七・二七八(就労可能年数 平均余命の二分の一である九年に対する新ホフマン係数)

(被告の主張)

亮一は、五八歳の時に太平工業から別会社に出向し、平成五年九月付けで退職している。そして、一年八ヶ月ほど北川製麺に就職し、平成七年は七九万四三七五円の給与をもらっていた。そうすると、亮一の逸失利益は右現実の収入額を基準に算定すべきであり、仮に賃金センサスの平均賃金を適用するとしても、平均賃金から減額して算定すべきである。

3  慰謝料

(原告の主張)

本件は、被告彰がムシャクシャした気分の気晴らしのために制限速度を大幅に超える速度で加害車両を運転して暴走させることにより、センターラインを越えて事故を起こしたという極めて悪質な事案である。また、被告らの事故の示談交渉に関する不誠実さも顕著であり、亮一の一家の柱としての立場を考慮すると、二八〇〇万円が相当である。

(被告の主張)

慰謝料としては二〇〇〇万円程度が妥当なところである。

亮一が家庭において一家の柱であったとは言い難い。

さらに、原告らは搭乗者傷害の支払金一三〇〇万円を受けており、右金額は損害額から控除されなくても、慰謝料の算定に当たり斟酌すべきである。

第三争点に対する判断

一  損害(弁護士費用を除く。)について

1  葬儀費、墓碑建設費等 一五〇万円

証拠(甲第三、第四の一ないし一二、第四の一三の一、二、第四の一四、一五、第五ないし第七、原告智和)によると、本件事故で亮一が死亡したことにより、葬儀費用一二〇万八八四四円、墓石代二三七万一〇〇〇円の合計三五七万九八四四円が支出されたことが認められるところ、このうち本件事故と相当因果関係ある金額は、一括して一五〇万円と認められる。

2  逸失利益 二〇三〇万〇八一六円

(一) 証拠(甲第九、第一〇の一、二、第一一の一、二、第一二、第一六の一ないし一四、第一七の一ないし一五、第一八の一ないし一二、原告智和)によると、次の各事実を認めることができる。

亮一は、太平工業株式会社を平成五年九月三〇日付で定年退職し、退職後一年間は再就職せず雇用保険をもらい、その後北川製めん株式会社でパート勤務していたが、平成八年三月頃に辞め、再就職先を探している最中に本件事故に遭った。また、亮一は厚生年金(年額一五一万八三〇〇円)を受給していた。

また、亮一は、本件事故当時、妻である原告幸子と、原告智和夫婦の四人で生活していた。原告智和は本件当時三〇歳であり就職して月額三〇万円ほどの収入を得ていた。

(二) 右事実によると、亮一は定年退職後も就労し得る能力及び就労意欲をいずれも十分に有していたものと推認することができるから、逸失利益の算定根拠としては、賃金センサス平成七年第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計の六二歳男子労働者の平均給与額四六四万八九〇〇円を基礎とする。

また、右で認定した本件事故当時の亮一の家族構成等を考慮すると、生活費の控除率としては四〇パーセントを採用するのが相当である。

そして、中間利息控除として、六二歳男性の平均余命一八・四七年(厚生省第一七回生命表)の半分である九年(小数点以下切り捨て、以下の計算における扱いも同様とする。)に相当する新ホフマン係数七・二七八を採用して計算すると、亮一の逸失利益は二〇三〇万〇八一六円となる。

四六四八九〇〇×(一-〇・四)×七・二七八

3  慰謝料 二二〇〇万円

本件の事故態様、結果、亮一の年齢及び家庭環境等本件に現われた諸事情を考慮すると、亮一の死亡による慰謝料としては、二二〇〇万円をもって相当と認める。なお、原告らが搭乗者傷害保険給付金を受け取ったことは、本件慰謝料算定に当たって特に斟酌していない。

4  右1ないし3の合計額は四三八〇万〇八一六円となる。

二  損害の填補について

前記第二の一5のとおり、亮一の遺族宛に自賠責保険から二三二五万五五〇〇円が支払われているから、これを右損害額から控除すると、残額は二〇五四万五三一六円となる。

三  その他

1  相続関係

亮一と原告らとの相続関係は前記第二の一4のとおりであるから、亮一の被告に対する損害賠償請求権を、原告幸子は二分の一、その余の原告らは六分の一ずつ相続した。したがって、被告に請求しうる損害額は原告幸子は一〇二七万二六五九円、その余の原告らは各自三四二万四二一九円となる。

2  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係を認められる弁護士費用としては、原告幸子につき一〇〇万円、その余の原告らにつき各自三〇万円が相当である。

四  結論

以上の次第で、原告らの請求は、被告ら各自に対し、主文第一、第二項掲記の各金額及びこれらに対する本件事故日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 西井和徒)

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